こぶじいさま
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こぶじいさま
再話・松井直 画・赤羽末吉
福音館
福音館の『こぶじいさま』は、福音館書店創業メンバーで名編集者の松井直さんによる再話。絵は赤羽末吉さん。赤羽末吉さんの『かちかちやま』は、勢いのあるキリッとした線で緊張感のある場面を展開されていましたが、『こぶじいさま』は色のグラデーションやにじみの効果がやわらかく、鬼がたくさん出てくるのに、どこか、のどかな雰囲気ですね。
「こぶとりじいさん」という題名の方が馴染みがあるかもしれません。私の大好きな昔話のひとつです。
いわゆる隣の爺型昔話で、人の真似をしてもろくなことはないのですが、このお話の隣の爺さまには同情を禁じ得ません。陽気な性格や一芸を持っていたり機転がきくと、ピンチをチャンスに変えられるのはきっとそうなんでしょうけど、隣の爺さまは欲張りでも嘘つきでもないのに、内気なばっかりにこぶが増えるって酷いじゃないですか。むしろ、主役の爺さまの嘘が隣の爺さまに災いとなって降りかかっているというのに。このあとのご近所付き合いに大いに差し障ると思います。
なのに、なぜ大好きな昔話かというと、別に隣の爺さまの不運を笑っているわけではありません。
まず、鬼たちは何者なんだろう? というのがずっと気になっていました。
大川悦生さんの『こぶとり』(ポプラ社)では天狗になっていますが、『こぶじいさま』(福音館)同様、大勢でお堂の周りを歌い踊ります。炭焼き小屋とかではなくお堂。異界につながるキーポイントがお堂というのもいいです。お堂って神仏を祀るものですよね。歌や踊りを奉納しているのでしょうか。鬼たちが悪者だとは思えません。
中世から近代以前は日本にもアジール的な空間があったそうです。アジールとは聖域や自由領域、避難所、駆け込み寺といった性格を持つ場所で、権力や法の支配が及ばない、社会からはみ出したものが生きることができる領域。公民権はないけど投獄まではされないみたいな曖昧な場所。そういう場所が各地にあったそうです。
物語に出てくる鬼や山姥も、そういう人々との遭遇であったのではないかなと思います。このお話のお堂はアジール的な場所を示しているのではないでしょうか。鬼の集団は、旅芸人の一座が滞留してたのかもしれません。そういう人たちは、新しい価値観を持ち込むでしょう。
じいさまが厄介に思っていたこぶを、その一座は大事なものだと思い込みます。コンプレックスだったこぶがチャームポイントだと認識されたら、実際にこぶを取らなかったとしても、じいさまみたいに急に身軽になったような気持ちになるのではないでしょうか。その爽快感が大好きです。
隣の爺さまは残念でしたが、合わない集団に無理して寄っていくことないですよと伝えたいです。
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